妊婦、授乳期、小児の頭痛
妊婦、授乳期、小児の頭痛

当院では、妊娠中や授乳期の女性、および小児・思春期のお子様の頭痛診療に力を入れています。これらの時期は使用できる薬剤に制限があったり、身体的・精神的な発達段階に応じたきめ細やかな対応が必要とされたりするため、専門的な知識に基づいた診断と治療が不可欠です。本ページでは、日本の最新データおよび『頭痛の診療ガイドライン2021』に基づいた当院の診療方針について解説します。
妊娠可能年齢の女性において、片頭痛は非常に身近な疾患です。妊娠や授乳というライフイベントにおける頭痛の変化や適切な対処法を知ることは、母子の健康を守るために重要です。
日本における片頭痛の有病率は、全体で約8.4%とされていますが、男女差が大きく、男性3.6%に対し女性は12.9%と約4倍の高頻度です。特に30代〜40代の女性では有病率が高く、妊娠・出産期と重なります。一般的に、妊娠中はホルモンバランス(エストロゲン)が安定するため、片頭痛は改善する傾向にあります。
妊娠中は血液凝固能の変化などにより、二次性頭痛(脳卒中や血栓症など)のリスクが相対的に高まる時期でもあります。以下の症状がある場合は、直ちに医療機関を受診してください。
原則として非薬物療法(休息、水分摂取、睡眠、冷罨法など)を優先しますが、生活に支障がある場合は、胎児への安全性を考慮した上で薬物療法を行います。
| 薬剤分類 | 主な薬剤名 | 妊娠中の使用について |
|---|---|---|
| アセトアミノフェン | アセトアミノフェン(カロナール) | 第一選択薬。妊娠全期間を通じて比較的安全に使用可能です。 |
| トリプタン製剤 | スマトリプタン(イミグラン)など | 有益性投与。アセトアミノフェンで効果不十分な場合、医師の判断により検討されます。スマトリプタンは使用経験が多く、比較的安全とされています。 |
| NSAIDs | イブプロフェン(ブルフェン)、ロキソプロフェン(ロキソニン) | 注意が必要。妊娠後期(28週以降)は胎児動脈管収縮のリスクがあるため禁忌です。妊娠初期・中期も必要最小限の使用に留めます。 |
頭痛発作が頻回で日常生活に著しい支障をきたす場合、産婦人科医と連携の上、予防療法を慎重に検討します。『頭痛の診療ガイドライン2021』では、妊娠中の片頭痛予防療法として以下の薬剤が示されています。
非薬物療法
(第一選択)
マグネシウム(360mg/日)、ビタミンB2(リボフラビン 400mg/日)などのサプリメント。安全性が高く、まず試みるべき選択肢です。
β遮断薬
プロプラノロール(インデラル)など。国際的にも妊娠中の片頭痛予防の第一選択薬として位置づけられています。ただし、胎児発育遅延や新生児低血糖・徐脈のリスクがあり、出産予定日近くでは中止を検討する必要があります。
三環系抗うつ薬
アミトリプチリン(トリプタノール)。低用量(10〜25mg/日)での使用が検討されます。不眠や不安を伴う場合に有用です。妊娠後期の使用では新生児に一時的な離脱症状(呼吸困難、イライラなど)が出る可能性があります。
バルプロ酸ナトリウム
(デパケン)
催奇形性(神経管閉鎖障害、心奇形など)および胎児の神経発達障害のリスクが確立しており、妊娠中・妊活中は絶対禁忌です。
トピラマート
(トピナ)
口唇口蓋裂や低出生体重児のリスクがあり、妊娠中は避けるべきです。
CGRP関連製剤
妊娠中のデータが不足しており、使用は推奨されません。半減期が長いため、妊娠を計画する数ヶ月前から中止する必要があります。
授乳中は、母乳への薬剤移行を考慮して治療薬を選択します。片頭痛発作により母親が育児困難になることを防ぐため、適切な鎮痛薬の使用は推奨されます。
アセトアミノフェン
(カロナール)
安全に使用可能。
イブプロフェン
(ブルフェン)
母乳移行が極めて少なく、安全に使用可能。
スマトリプタン
(イミグラン)
母乳への移行率は低いとされています。念のため服用後24時間(または12時間)の授乳回避(搾乳・廃棄)を指導する場合もありますが、海外ガイドラインでは制限なしとする場合もあります。
妊娠中・授乳中に薬物療法が制限される場合、後頭神経ブロックは有力な代替治療法となります。これは後頭部の神経に局所麻酔薬を注射する治療で、片頭痛や後頭神経痛に効果的です。
2025年に米国スタンフォード大学の研究チームが発表した後ろ向きコホート研究では、妊娠中に両側後頭神経ブロックを受けた患者において、以下の知見が報告されています。
出典:Headache誌 2025年7月7日号(米国スタンフォード大学研究)
国際頭痛学会(IHS)が発行する「脳神経内科医のための頭痛コア・カリキュラム」では、慢性片頭痛や群発頭痛に対する後頭神経ブロックについて、エビデンスレベルを評価しながら治療選択肢の一つとして位置づけています。妊娠・授乳期においては、全身投与する薬剤よりも局所的な作用にとどまるため、理論的に胎児・乳児への曝露リスクが低いと考えられます。
当院では、妊娠中・授乳中で薬物治療が困難な患者様に対して、後頭神経ブロックを選択肢の一つとしてご提案しています。
「子供が頭痛を訴える」ことは珍しくありませんが、単なる仮病や怠けと誤解され、適切な治療を受けられていないケースが多く見られます。当院では小児特有の症状や生活背景を考慮した診療を行っています。
小児の頭痛は年齢とともに増加します。日本の調査データによると、有病率は以下の通りです。
片頭痛
中学生で約4.8%(男子3.3%、女子6.5%)、高校生で約15.6%(男子13.7%、女子17.5%)と、思春期に急増します。
緊張型頭痛
高校生で約26.8%と非常に高頻度です。
成人の頭痛と異なり、小児の片頭痛には以下の特徴があります。診断には国際頭痛分類第3版(ICHD-3)に基づき、これらの特徴を加味します。
持続時間
2〜72時間(成人より短い傾向)。
部位
両側性(特におでこやこめかみ)のことが多い(成人は片側性が典型的)。
随伴症状
頭痛よりも、腹痛や嘔吐、めまいが目立つことがある(周期性嘔吐症、腹部片頭痛など)。
光・音過敏
言葉で訴えることが難しく、部屋を暗くして寝たがるなどの行動で判断します。
小児の頭痛診療において最も重要なのは、生命に関わる疾患(二次性頭痛)の除外です。MRI検査等を用いて以下の疾患を鑑別します。
モヤモヤ病
日本人に多い脳血管疾患。内頚動脈終末部の狭窄と異常血管網が特徴。小児期は過呼吸(笛吹き、熱いものを冷ます動作)で誘発される脱力発作や頭痛で発症することがあります。
脳腫瘍・髄膜炎
早朝の頭痛、嘔吐、歩行障害などが見られる場合は要注意です。
小児・思春期の慢性頭痛には、起立性調節障害(OD)が合併している例が多く見られます。ODは自律神経機能の不調により、立ちくらみ、朝起きられない、倦怠感などを伴います。
非薬物療法
水分(1.5〜2L/日)と塩分の積極的摂取、起立時の工夫、適度な運動。
薬物療法
ミドドリン(メトリジン)、アメジニウム(リズミック)、プロプラノロール(インデラル)などを使用します。
発作が起きたら我慢せず、早めに鎮痛薬を使用することが重要です。
| 薬剤名 | 特徴 |
|---|---|
| アセトアミノフェン (カロナール) |
小児における第一選択薬。安全性が高く、体重に応じた適切な用量(10〜15mg/kg/回)の調整が必要です。 |
| イブプロフェン (ブルフェン) |
アセトアミノフェンより鎮痛効果が高い場合があります。 |
| トリプタン製剤 | スマトリプタン点鼻薬(イミグラン点鼻)は、小児(12歳以上が目安ですが、臨床現場では状況により使用)に対する有効性が示されています。リザトリプタン(マクサルト)は、12歳以上の小児での使用経験があります。 |
学校生活に支障が出る場合(欠席が多い、保健室利用頻度が高い等)は予防薬を開始します。
カルシウム拮抗薬
ロメリジン(ミグシス)。副作用が少なく使いやすい。
抗てんかん薬
バルプロ酸ナトリウム(デパケン)。効果が高いが女児への投与は慎重に行います。
抗うつ薬
アミトリプチリン(トリプタノール)。睡眠障害を伴う場合に有効。
漢方薬
五苓散(気圧変動に弱い場合)、呉茱萸湯、抑肝散(ストレスが強い場合)など。
近年登場した画期的な片頭痛予防薬であるCGRP関連製剤(エムガルティ、アジョビ、アイモビーグ等)は、現在保険適用上は原則として成人(18歳以上)が対象ですが、臨床的判断により15歳以上(中学生〜高校生)で使用されるケースもあります。12歳以上を対象とした治験も進行中であり、将来的には小児への適応拡大が期待されています。
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