二次性頭痛
二次性頭痛
頭痛の多くは、片頭痛や緊張型頭痛などの「一次性頭痛」ですが、中には脳や血管、髄液圧、腫瘍などの明らかな原因疾患によって引き起こされる「二次性頭痛」が潜んでいます。国際頭痛分類第3版(ICHD-3)では、新たに出現した頭痛が、頭痛を起こしうる別の疾患と時間的に関連して発症した場合、たとえ症状が片頭痛に似ていても二次性頭痛として診断するという原則が示されています。
つまり、「いつもの頭痛に似ているから大丈夫」とは限らず、詳細な病歴聴取と適切な画像診断を用いた鑑別が不可欠です。すべての頭痛患者にMRIが必要なわけではありませんが、起立で悪化する頭痛、突然発症する雷鳴頭痛、神経症状を伴う頭痛、視覚症状や乳頭浮腫を伴う頭痛、進行性に悪化する頭痛といった「レッドフラッグ(危険なサイン)」がある場合、MRIは診断を決定づける極めて重要なツールとなります。
CTは出血(くも膜下出血など)や骨の異常、急性副鼻腔炎の初期評価に優れ、救急現場での迅速なスクリーニングに適しています。一方、MRIは脳実質の微細な異常、血管の解離や静脈血栓症、髄液圧異常による硬膜の変化、脳腫瘍などを詳細に評価できるため、原因不明の二次性頭痛の精査に不可欠です。
ICHD-3における「急性副鼻腔炎による頭痛」は、副鼻腔炎に伴って発症する頭痛や顔面痛と定義されています。鼻汁や鼻閉といった鼻炎症状、顔面の圧痛を伴い、一側性の副鼻腔炎の場合は患側と同側に痛みが局在するのが特徴です。ICHD-3の診断基準では、「臨床所見、鼻腔内視鏡、または画像証拠」によって急性副鼻腔炎が存在することが要件とされています。急性副鼻腔炎の一次診断および炎症範囲や液貯留の確認には、一般的にCT検査が適しています。
しかし、頭痛診療においてMRIも重要な役割を果たします。ひとつは、「副鼻腔炎による頭痛だと思っていたが、実は片頭痛だった」という誤認を防ぐための鑑別です。MRIで副鼻腔に膿性変化などの明らかな炎症所見がなければ、その頭痛は副鼻腔炎由来の二次性頭痛ではなく、片頭痛などの一次性頭痛である可能性が高まります。
ICHD-3は、かつて使われていた「副鼻腔性頭痛(sinus headache)」という曖昧な旧用語を廃止し、片頭痛と副鼻腔炎の混同に強く注意を促しています。
重要:頭蓋内合併症の疑いには造影MRIが必須急性副鼻腔炎が重症化し、頭蓋内に炎症が波及すると、硬膜外膿瘍、硬膜下膿瘍、脳膿瘍、静脈洞血栓症、髄膜炎といった致死的な合併症を引き起こすことがあります。高熱、激しい頭痛、意識障害、神経症状を伴う副鼻腔炎では、これらの合併症を評価するために造影MRIが極めて有用かつ必須の検査となります。
特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)は、明らかな腫瘍などの原因がないにもかかわらず頭蓋内圧が上昇する疾患で、肥満気味の若年〜中年女性に多く見られます。ICHD-3では、頭蓋内圧上昇に伴って新たに出現した、あるいは明らかに悪化した頭痛として定義されます。
頭痛自体は片頭痛や緊張型頭痛に似ることが多く、特徴的な症状として拍動性耳鳴り、乳頭浮腫、一過性の視覚障害を伴うことがあります。IIHの診断においてMRIは、頭蓋内圧亢進のサインを捉えると同時に、他の原因疾患(脳腫瘍や水頭症など)を除外するために重要です。特徴的なMRI所見には、empty sella(空のトルコ鞍)、視神経周囲くも膜下腔の拡大、眼球後極の平坦化、視神経乳頭の突出、横静脈洞の狭窄などがあります。
特発性頭蓋内低髄液圧症(SIH)は、外傷や穿刺などの明らかな原因がなく髄液が漏出することで生じる疾患です。ICHD-3では、低髄液圧に関連して起こる「起立性頭痛(立位で悪化し、臥位で改善する頭痛)」として定義されています。ただし、慢性化すると起立性の特徴が乏しくなることもあるため注意が必要です。
SIHを疑う場合、脳MRIによる評価が極めて有用です。最も感度が高い所見は、造影MRIでみられるびまん性で平滑な硬膜増強(pachymeningeal enhancement)です。その他、脳の下垂(brain sag)、非外傷性の硬膜下血腫、下垂体腫大、静脈洞の拡張などがみられます。Chiari 1奇形との鑑別SIHでは脳全体が下垂するため、MRI上で小脳扁桃が下垂して見えます。これを先天的な「Chiari 1奇形」と誤診しないよう注意が必要です。SIHによる二次的な扁桃下垂は、髄液漏出の治療により改善します。
脳静脈血栓症(CVT)は、脳の静脈や静脈洞に血栓が詰まる疾患です。ICHD-3において頭痛はCVTの最も一般的な初期症状とされており、頭痛が唯一の症状であるケースも少なくありません。これを単なる一次性頭痛と見逃して放置すると、脳浮腫、脳出血、けいれん、意識障害などの重篤な状態に進行する危険があります。
CVTの診断には、MRIおよびMR静脈撮影(MRV)の組み合わせが非常に有効です。造影MRIでは、血栓の周囲のみが造影され中心が抜けて見えるempty delta signが特徴的な所見です。MRVでは静脈洞の血流途絶(造影欠損)を直接確認できます。また、脳実質には動脈の支配領域に一致しない非典型的な浮腫や出血が認められることがあり、動脈性梗塞との鑑別に役立ちます。
頚動脈や椎骨動脈の内膜が裂ける動脈解離は、急性の一側性頭痛や頚部痛を引き起こします。ICHD-3では、解離した血管の同側に一致して突然発症する頭痛や顔面痛・頚部痛として定義されています。この痛みは、後に起こりうる重大な脳梗塞や網膜虚血に先行する「警告症状」であることが多いため、痛みの段階で診断することが救命の鍵となります。
片頭痛や群発頭痛と誤認されやすいですが、Horner症候群(眼瞼下垂・縮瞳)、脳神経麻痺、耳鳴り、通常の鎮痛薬が効かない持続的な痛みなどのサインがある場合は強く疑います。MRIでは、脂肪抑制T1強調画像において血管壁内の血腫が高信号として描出される所見が診断の決め手となります。また、double lumen(二重腔)、解離性動脈瘤、血管の先細り狭窄(string sign)なども確認されます。
くも膜下出血(SAH)は、バットで殴られたような突然の激しい痛みである「雷鳴様頭痛(thunderclap headache)」を特徴とします。ICHD-3でも、急激に発症し数秒から数分でピークに達する重度の頭痛として記載されています。SAHにおけるCTとMRIの役割SAHの初期診断の第一選択は、圧倒的に単純CTです。発症直後の出血検出においてCTは非常に感度が高く、迅速に検査可能です。
しかし、発症から数日経過するとCTでの出血の描出能は低下します。このような発症から時間が経った亜急性期の症例では、MRIのFLAIR画像や磁気率強調画像(SWI/T2*)が、くも膜下腔の少量の出血やヘモジデリン沈着を描出するのに極めて有用です。CTやMRIが陰性であっても、臨床的にSAHが強く疑われる場合は腰椎穿刺による髄液検査が必要です。
なお、雷鳴様頭痛を来す疾患はSAHだけではありません。後述する下垂体卒中や、可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)、前述のCVTや動脈解離も鑑別に挙がるため、MRI/MRAを用いた総合的な血管・実質評価が求められます。
下垂体卒中は、下垂体腺腫などの腫瘍内への急激な出血や梗塞によって発症する救急疾患です。ICHD-3では、突然発症の重度な頭痛(しばしば雷鳴様)に加えて、視覚症状(視野欠損)、眼球運動障害、下垂体機能低下症を伴うものと定義されています。雷鳴頭痛の患者に対してSAHを除外するためにCTが撮像されますが、下垂体卒中の評価においては、鞍内病変の詳細なコントラストと出血・虚血の広がりを評価できるMRIがCTよりもはるかに高感度で有用です。視野障害や眼瞼下垂を伴う突然の頭痛では、MRIで下垂体を念入りに確認する必要があります。
Chiari 1奇形は、小脳扁桃が大後頭孔を越えて脊柱管内に落ち込んでいる先天性の形態異常です。ICHD-3では、咳、くしゃみ、いきみなどのValsalva動作によって誘発される、後頭部から後頚部にかけての持続時間の短い(通常5分未満)頭痛と定義されています。MRIによる診断基準として、小脳扁桃の大後頭孔からの5mm以上の下垂、または3mm以上の下垂に加えて頭蓋頚椎移行部における髄液スペースの狭小化が挙げられます。
ただし、画像上で小脳扁桃が下垂しているからといって即座にChiari 1奇形と断定してはいけません。前述のSIH(低髄液圧)やIIH(頭蓋内圧亢進)によっても「二次的な扁桃下垂」が生じるため、MRI画像全体から髄液圧異常のサインがないか慎重に鑑別する必要があります。
脳腫瘍などの頭蓋内占拠性病変による頭痛は、ICHD-3において進行性に悪化する頭痛として分類されています。初期は緊張型頭痛に似た非特異的な痛みであることが多いですが、特徴として「朝方に悪化する」「臥位で増悪する」「Valsalva動作で悪化する」「悪心・嘔吐を伴う」などの頭蓋内圧亢進症状を呈するようになります。
MRIは腫瘍そのものの描出だけでなく、周囲の脳浮腫、正中構造の偏位(脳ヘルニアの危険性)、水頭症の合併、そしてCTでは骨のアーティファクトで見えにくい後頭蓋窩や正中部の病変の評価に圧倒的な優位性を持ちます。過去にがんの既往がある患者や、神経脱落症状を伴う進行性の頭痛では、早期の造影MRI検査が推奨されます。
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