2026年10月27日

片頭痛は世界中で10億人以上の方が悩んでいる病気です。日本でも約840万人の方が片頭痛で困っており、多くの方が日常生活に支障をきたしています。
片頭痛の治療薬として広く使用されている「トリプタン」ですが、すべての患者さんに効果があるわけではありません。また、病気の状態や年齢によっては使用できない場合もあります。
この記事では、フランスで行われた最新の大規模研究(2022年)の結果をもとに、トリプタンが「効かない」「使えない」場合について、分かりやすく解説いたします。同じような状況でお悩みの患者さんやご家族の方に、新しい治療の選択肢を知っていただくことが目的です。
1. 片頭痛とトリプタンについて
片頭痛とは
片頭痛は、頭の片側(時には両側)に起こる激しい痛みを特徴とする病気です。主な症状には以下があります:
・ズキンズキンと脈打つような痛み(拍動性頭痛)
・吐き気や嘔吐
・光や音に対する過敏症
・動くと痛みが悪化する
・発作は4時間から72時間続くことがある
トリプタンとは
トリプタンは、片頭痛の発作を止めるために開発された特別な薬です(専門用語では「急性期治療薬」と呼びます)。1990年代から使用が始まり、現在では片頭痛治療の中心的な薬となっています。
日本で使用できるトリプタンの種類
・スマトリプタン(イミグラン®) 最初に開発されたトリプタン
・ゾルミトリプタン(ゾーミッグ®)口腔内崩壊錠もある
・エレトリプタン(レルパックス®)副作用が少なめ
・リザトリプタン(マクサルト®) 聞き始めが早い
・ナラトリプタン(アマージ®)効果の持続時間が長い
トリプタンの効果のメカニズム
トリプタンは、脳の血管を収縮させ、痛みに関わる神経の興奮を抑えることで片頭痛を改善します。セロトニン(5-HT)という物質の受容体に作用することで、この効果を発揮します。
2. トリプタンが「使えない」「効かない」とは?
「トリプタン不全」とは、トリプタンによる治療がうまくいかない状態のことを指します。これには大きく分けて2つのパターンがあります。
1. トリプタン使用不適格(使えない場合)
以下のような理由でトリプタンを使用できない、または使用すべきでない状態:
・禁忌疾患がある(心臓や血管の病気など)
・高齢者(安全性の観点から慎重な使用が必要)
・重度の肝臓・腎臓の病気
・他の薬との相互作用
2. トリプタン抵抗性(効かない場合)
トリプタンを使用しても十分な効果が得られない状態:
・1種類のトリプタンで効果不十分 → 「非反応性」
・2種類以上のトリプタンで効果不十分 → 「抵抗性」
・3種類以上のトリプタンで効果不十分 → 「難治性」
3. 最新研究の結果
2022年にフランスで行われた「France-Mig研究」は、16,888人の片頭痛患者さんを対象とした大規模な調査です。この研究から、トリプタン不全の実態が明らかになりました。
主要な発見
・フランス人口の2.8%がプライマリケア(かかりつけ医)で片頭痛治療を受けている
・片頭痛患者さんの26.7%がトリプタン不全の状態
・患者さんの平均年齢は48.7歳で、78%が女性
・禁忌があるにも関わらず、53.9%の患者さんにトリプタンが処方されていた
表1:トリプタン不全の内訳

表2:研究対象患者さんの特徴

4. トリプタンが使えない方(禁忌について)
なぜ禁忌があるのか?
トリプタンは血管を収縮させる作用があるため、すでに血管に問題がある方が使用すると、血流が悪くなって危険な状態になる可能性があります。
心血管系の禁忌
以下の病気がある方は、トリプタンを使用できません:
・虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)
・脳血管疾患(脳梗塞、脳出血の既往など)
・不整脈(特に重篤な不整脈)
・末梢動脈疾患(手足の血管の病気)
・コントロール不良の高血圧
その他の禁忌
・重度の腎不全・肝不全(薬の代謝に影響するため)
・エルゴタミン製剤との併用(血管収縮作用が強くなり過ぎるため)
高齢者の方への注意
高齢者の方は、加齢に伴い血管の病気のリスクが高くなるため、トリプタンの使用には特に慎重な判断が必要です。研究では65歳以上の方の54.9%にトリプタンが処方されていましたが、これは注意深い検討が必要な状況です。
5. トリプタンが効かない方(抵抗性について)
トリプタン抵抗性の定義
ヨーロッパ頭痛学会の定義によると:
・トリプタン反応性:4回の発作のうち3回以上で効果があり、副作用がない
・トリプタン非反応性:1種類のトリプタンで効果不十分
・トリプタン抵抗性:2種類以上のトリプタンで効果不十分
・トリプタン難治性:3種類以上のトリプタンで効果不十分
研究結果

なぜ効かないことがあるのか
トリプタンが効かない理由には以下があります:
・個人差:薬の代謝能力や受容体の感受性の違い
・片頭痛のタイプ:トリプタンが効きにくいタイプの片頭痛
・使用タイミング:発作の初期に使用しないと効果が下がる
・併用薬の影響:他の薬との相互作用
・生活習慣:ストレス、睡眠不足、食生活などの影響
6. 研究で明らかになった問題点
重要な問題:不適切な処方
研究では、禁忌があるにも関わらず53.9%の患者さんにトリプタンが処方されていることが分かりました。これは以下を意味しています:
・治療選択肢の不足:トリプタン以外の有効な治療法が限られている
・医療現場の課題:代替治療に関する情報や選択肢が十分でない
・患者さんの困窮:痛みが強いため、リスクがあっても使わざるを得ない状況
・新しい治療法の必要性:トリプタンに代わる安全で効果的な治療薬が求められている
この状況は、「アンメットメディカルニーズ」(満たされていない医療ニーズ)と呼ばれ、医療界全体で解決すべき重要な課題となっています。
7. トリプタンが使えない・効かない場合の選択肢
幸い、近年は片頭痛治療の選択肢が大幅に増えています。以下のような治療法があります:
1. NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)・鎮痛薬
代表的な薬:
・ロキソプロフェン(ロキソニン®)
・イブプロフェン(ブルフェン®、イブ®)
・ナプロキセン(ナイキサン®)
・ジクロフェナク(ボルタレン®)
・アセトアミノフェン( カロナール® ) :副作用が少なく安全性が高い
特徴:比較的安全で、軽度から中等度の片頭痛に効果的
注意:鎮痛薬の使い過ぎは、かえって頭痛を悪化させることがあります(薬物使用過多による頭痛)
2. 予防薬
発作の回数や強さを減らすために継続的に服用する薬:
・β遮断薬(プロプラノロール)
・抗てんかん薬(バルプロ酸、トピラマート)
・抗うつ薬(アミトリプチリン)
・カルシウム拮抗薬(ロメリジン)
3. 新しい治療薬
近年登場した革新的な治療薬:
ジタン(ラスミジタン:レイボー®)
・2022年に日本で承認
・トリプタンとは異なる作用機序
・血管収縮作用がないため、心血管系疾患がある方にも使用可能
ゲパント(リメゲパント:ナルティーク®)
・2025年12月頃から使用できる予定。別記事を参考ください。
・CGRP受容体拮抗薬
・発作治療と予防の両方に使用可能
・副作用が少なく、安全性が高い
CGRP抗体製剤
・エレヌマブ(アイモビーグ®)、ガルカネズマブ(エムガルティ®)など
・月1回の注射で予防効果
・従来の予防薬で効果不十分な方に適応
4. 生活習慣の改善
薬物治療と併せて、以下の生活習慣の改善も重要です:
・規則正しい睡眠:睡眠不足や寝過ぎを避ける
・ストレス管理:リラクゼーション、適度な運動
・食生活の注意:誘発食品の特定と回避
・頭痛ダイアリー:発作のパターンを把握
・適度な運動:有酸素運動が予防に効果的
まとめ
トリプタン製剤は合う方には効果が良いですが、頸部などの締め付け感、倦怠感、嘔気などが出現してしまう場合もありうまく使用できない方もいる一方で文献にあるように別のトリプタン製剤にすると問題なく使用できる場合が多く、試してみなければ副作用がわからないという点が使いにくく感じる方もいるかもしれません。新規の急性期治療薬のレイボーも副作用の点で使いにくい方も多く最新の急性期治療薬のナルティークが使用できるようになり恩恵を受ける方もいると思います。一方で新しい薬剤は薬価が高く、実際の使用データは少ないので従来のトリプタン製剤が合う方や妊娠・授乳中もしくは検討されている方は合うトリプタン製剤を探すことでストレスの少ない生活を目指した治療ができると考えております。
参考文献
1. Lanteri-Minet M, Casarotto C, Bretin O, et al. Prevalence, characteristics and management of migraine patients with triptan failure in primary care: the EMR France-Mig study. The Journal of Headache and Pain. 2025;26:153. doi:10.1186/s10194-025-02086-0
2. 日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会(訳):国際頭痛分類 第3版 beta版. 医学書院, 2014
3. 日本頭痛学会(編):頭痛の診療ガイドライン2021. 医学書院, 2021
4. Ashina M, et al. Migraine and the trigeminovascular system-40 years and counting. Lancet Neurol. 2019;18(8):795-804
5. Goadsby PJ, et al. A controlled trial of erenumab for episodic migraine. N Engl J Med. 2017;377(22):2123-2132
免責事項:この記事は教育目的で作成されており、個別の医学的アドバイスに代わるものではありません。治療に関する決定は、必ず医師と相談の上で行ってください。
監修医師紹介
大阪頭痛脳神経クリニック
猪股 拓海 Takumi Inomata
◎資格・所属学会
日本内科学会 内科専門医
日本頭痛学会 頭痛専門医
日本神経学会 脳神経内科専門医
◎専門分野
脳神経内科
略歴
2018年
秋田大学医学部医学科 卒業
市立秋田総合病院 初期臨床研究プログラム
2020年
市立秋田総合病院 脳神経内科
2022年
国立病院機構 あきた病院 脳神経内科
2023年
市立秋田総合病院 脳神経内科
2025年
天王寺だい脳神経外科
2026年
大阪頭痛脳神経クリニック
天王寺だい脳神経外科
山田 大 Dai Yamada
◎資格・所属学会
日本脳神経外科学会 専門医
身体福祉障害者指定医
難病指定医
日本脳神経外科コングレス
日本頭痛学会
日本脳卒中学会
日本認知症学会
日本頭痛学会 頭痛専門医
◎専門分野
頭痛の治療
認知症の治療
首、腰の病気、しびれ
血管の病気
めまい、たちくらみ
てんかん
高血圧、高脂血症、糖尿病
リハビリテーション
略 歴
2013年
近畿大学医学部医学科 卒業
高砂市民病院 初期研修医 内科、外科、製鉄記念広畑病院 救急科
2015年
医療法人寿会 富永病院 脳神経外科
2018年
医療法人寿会 福島県 総合南東北病院 脳神経外科
2019年
医療法人寿会 富永病院 脳神経外科
2021年12月
医療法人寿会 富永病院 退職
2022年2月
天王寺だい脳神経外科 開院
基本情報
大阪頭痛脳神経クリニック

・住所 : 大阪市北区茶屋町6-6 TATSUMI茶屋町Bld.
・TEL : 06-6459-7268
・FAX : 06-6459-7269
・休診日 : 火曜・祝日
・アクセス
阪急線【大阪梅田駅】2番出入口から徒歩3分
JR線【大阪駅】御堂筋北口出入口から徒歩8分
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大阪メトロ谷町線【中崎町】4番出入口から徒歩6分
